デス・オーバチュア
第296話「quicksilver(クイックシルバー)」




光輝の爆裂が収まり、世界は再び灰色(静寂)を取り戻す。
「…………」
「…………」
タナトスとエレクトラ、刃を交錯させたはずの二人は、互いにかなり離れた位置に立っていた。
「……流石はセブンチェンジャーと言ったところね……」
最初に口を開いたのはエレクトラ。
「ふぅぅ……自画自賛に聞こえるぞ……元は貴様の武器なのだからな……」
タナトスは軽口を返しながら、荒い呼吸を整えていた。
無傷で平然としているエレクトラと違い、タナトスの衣服と肉体には軽い損傷が多々あり、疲労を現すように呼吸も乱れている。
「触れた瞬間に爆発するような危険物と斬り合いをしろだと? ふざけるにも程がある……」
星光鎌の刃はタナトスには届いていない、しっかりと漆黒の大鎌で打ち返した。
にもかかわらず、このダメージである。
しかも一方的にタナトスの方だけに……。
「フフフッ……自分の光輝(力)で傷つく程、愚かじゃないわ……」
タナトスの理不尽を責めるような視線に対し、今度はエレクトラが軽口で返した。
「……おまけに連続で使用可能か……」
「当然よ、さっきのは本体を爆散させたわけじゃない……あくまで凝縮されてた光輝を一部開放しただけ……」
星光鎌は光輝爆裂の際に消え去ったわけではなく、以前としてエレクトラの左手に健在である。
「……ならば……」
「んっ?」
「刃を交わすことなく斬り捨てるのみだっ! 駆け抜けろ、Beelzebub!」
タナトスの声に応えるように、セブンチェンジャーの四番目の宝石が妖しく光り輝いた。





「虚空疾走……」
そう名付けたのはユーベルガイストだったか。
周囲を黒光が飛び回っているようにしか『認識』できない、超高速の全方位攻撃。
以前、エレクトラがセリアに対して使ったのと同じ『戦法(技)』だ。
「悪魔界最速の悪魔(ベルゼブブ)の加護による速度向上……」
一言で言うなら『悪魔の加速(デビルズブースト)』である。
「ふっ!」
エレクトラは襲い来る黒光を狙って星光鎌を一閃した。
しかし、手応えは無い。
「……っぅ!」
逆にエレクトラの修道服が数カ所同時に浅く切り裂かれる。
そう、あまりの速さゆえに『同時』としか『認識』できないのだ。
「今の私にはベルゼブブの加護はない……けれど……」
エレクトラが星光鎌を両手から左手だけに待ち直すと、星光の刃が反り返り、180度廻転し、星光の長巻(ながまき)へと変じる。
「光輝の薙刀(レヴィヤタン)!?」
「星光刀(スターライトブレード)!」
エレクトラの星光刀が一瞬激しく光ったと思うと、轟音と共にタナトスが弾き飛ばされていた。
「なぜ、星光薙刀(スターライトグレイブ)ではなく星光刀なのか解る? いい機会だからあなたの間違いを正しておくわ」
「くっ……」
「Leviathanは薙刀ではなく長巻、『斬撃特化の矛』ではなく『柄の長い太刀』なのよ」
「……知ったことかぁっ!」
タナトスは虚空を蹴っ飛ばし、エレクトラの元へと舞い戻る。
「つまりこれは剣術よ」
星光刀が光ったと認識した瞬間、タナトスは再び弾き返されていた。
「光速の剣術……即ち光速剣……あ、剣じゃなく刀ってツッコミは無しね……」
「お前じゃあるまいしそんなどうでもいいこと気にするか! それよりも……光速剣だと……!?」
タナトスは光速剣(その技)を得意とする人物をよく知っている。
「光輝を使い……光速の剣を振るう……それではまるで……」
あの男そのものではないか。
「残念ながら光速剣では、接触(ヒット)の瞬間に光輝を爆裂させることはできない……つまり普通に『斬る』以上のダメージを与えることはできないのよ……」
「別段、残念がっているようにも見えないがな……」
光速剣の欠点が「一発一発の威力の弱さ」と「狙いの甘さ」だということは、タナトスはとっくの昔に知っていた。
だが、その二つの欠点は致命的な弱点にはならない。
威力は手数で増せばいいし、そもそも急所(点)を狙う技ではなく敵全体(面)を切り刻む技なのだ。
「あなたが飛び回るのと、私が剣を振り回すのと、どちらかが『速い』か……試すのは次で最後よ……」
エレクトラは左手に握った星光刀を右上段に振りかぶる。
「……次は本気で切り刻む……というわけか」
彼女がまだ全力を出していないことをタナトスは誰よりも感じ取っていた。
今までの光速剣は全力の半分……いや、三分の一程度の力で放たれたものだろう。
「……ベルゼブブ、アレをやるぞ」
タナトスは手にする大鎌へ話しかけるように小声で呟いた。
『…………』
声による返答ではなく、拒否と不満の『意志』自体がタナトスに直接伝わってくる。
「飢餓状態? 逆に丁度いいだろう、研ぎ澄ませ……私と心中したくなければ全速を解放しろ……全速全開だっ!」
『quicksilver』
四番目の宝石(ベルゼブブ)の発声と共に、タナトスは銀色の閃光と化した。





光速の軌跡を目で追える者が居たならば、金色の光の網と、その網目(隙間)を突き抜ける水銀色の蠅が視えただろう。
「クイックシルバーは……ベルゼブブ本人の全速力(フルスロットル)のはず……」
「ベルゼブブの全速は私の全速だ」
タナトスはエレクトラの真横を駆け抜けたような体勢で止まっていた。
常人の目には、銀色に光った直後、エレクトラの後方に瞬間移動したようにしか見えなかっただろう。
「それはもう同調どころか同化の域……蠅の王(ベルゼブブ)と相性良すぎよ、……様ぁぁぁっ!」
星光刀が切断され、次いで光輝の爆裂がエレクトラを呑み込んだ。
「お前の光速剣はあの男と比べて『隙間』が大きすぎる……」
あの男との差を生んだのは、おそらく武器の違い。
剣と長巻では、長巻の方が長く重く、形状的にもコンパクトに振り回しにくい。
その結果、刃の軌跡によって描かれる『光の網』の網目が粗(あら)くなったのだ。
「最初の星光剣のまま使うべきだったな」
あの男のように……。
「……苦手なのよ、片手剣って……」
光輝の爆裂が収まり、再び姿を現したエレクトラはかなりの損害(ダメージ)を負っていた。
「嘘を吐け……長柄武器を片手だけで器用に扱っておきながら……」
片手剣のように長柄武器を振るうにはとんでもない器用さと馬鹿げた腕力が必要不可欠である。
素直に片手剣を扱う方が遙かに簡単で楽なはずだ。
「ところで、自分で爆裂させた時と違って、それなりにダメージを受けたようだな……」
「光輝使いが別の光輝使いの光輝(攻撃)でダメージを受けるか受けないか……そういうことよ……」
「なるほど……他人の光輝ならダメージを受けるわけか……」
「ええ、制御を失った光輝はただの破壊エナジー……他人の光輝に等しいわ……」
つまり、意志に反した爆発……『暴発』なら手傷を負うということなのだろう。
「認めるわ、あなたは『Beelzebub』に関しては、私より先の領域に達している……」
100%以上の同調……同化領域でのみ発揮される『瞬速』……エレクトラにはできなかった……いや、思いつきすらしなかったことだ。
「……でも、他はどうかしら……!」
空高く跳び上がると同時に、エレクトラの右手に光輝の長弓が出現する。
「今度は光輝の長弓(アスモデウス)か!」
「射っ!」
左手に生み出された星光矢(スターライトアロー)が、光輝の長弓(スターライトボウ)によって瞬時に射出された。
「くっ」
光輝の矢は跳躍したタナトスの眼前を掠めるように降下(通過)し、真下の大地(空)で炸裂する。
「……っうぁぁっ!?」
爆風(破裂した光輝)がタナトスをさらなる上空へと強制的に押し上げる。
「星光万能斧(スターライトハルベルト)!」
待ち構えるエレクトラの左手には光輝の万能斧(ハルベルト)が握られていた。
「やるぞ、Belphegol! オリジナルの格の違い……お前の『進化』を見せてやれっ!」
セブンチェンジャーの六番目の宝石が強烈極まる輝きを放つ。
「砕っ!」
「壊っ!」
エレクトラとタナトス、互いの渾身の一撃が正面から激突した。





「ああぁぁぁっっ!?」
激突の結果、吹き飛ばされたのはエレクトラの方だった。
エレクトラは空を上り続け、大地(天井)へと到達する。
「……がはぁぁ!」
大地に体を十字にめり込んで、漸く彼女の上昇は止まった。
「…………」
彼女の脳裏に浮かぶのは、敗因である予想外の出来事。
「Belphegoの形が……私と違う……?」
あの時激突したのは万能斧と万能斧ではなかった。
「戦槌(ウォーハンマー)?」
片面が鋭く円錐状に尖っている巨大金槌。
エレクトラの万能斧を打ち返したのは、その巨大金槌の平らな片面だった。
「Asmodeus……改っ!」
赤く輝く光源が物凄い速さでこちらへと昇ってくる。
「なっ……アレがAsmodeus!?」
光源の正体であるタナトスの持つ武器は、エレクトラの知る長弓(アスモデウス)とは違っていた。
タナトスのAsmodeusは長弓ではなく槍。
それも「斧刃」と「五つの鉤爪」と「針のように細長く鋭い刺先」を合わせ持つ攻撃的で独創的な形状の穂先をした鉾槍だ。
「蠍槍(スコーピオン)……」
エレクトラはその特殊な槍の武器名を呟く。
以前、武器マニアなベルフェゴールから聞いたことがあった。
主に西方大陸で用いられた鉾槍で、その複雑な形状を生かし多岐に渡る攻撃が可能だが、それ故に習熟するのが困難な難度の高い武器とされている。
「刺(し)っ!」
タナトスは必殺の一撃(蠍の一刺)を、エレクトラの喉元めがけて突き出した。





「……どういうつもりだ、ファースト?」
蠍槍(アスモデウス)の刺先(針)は、エレクトラの喉元の1mm手前で止まっていた。
「ごめんなさい、仮初めの主様」
「一応礼は言っておこう、ファースト」
エレクトラの右隣にはファーストが、左隣にはベリアルが立ち、互いの『剣』を『主』の前で交差させている。
「私の紅蓮撫手だけでは、彼女の首は守れなかったからな」
蠍槍の刺先は「金剛の黒刀」と「火炎の両手剣」を串刺しにしていた。
もし『障害物』が片方だけだったなら、刺先はエレクトラの首を間違いなく刺し貫いていたことだろう。
「『真の主になる可能性がある者』を見殺しにするわけにはいかなかったの……」
「……なるほど、真の主か……」
タナトスは不愉快げな表情で、障害物から蠍槍を引き抜いた。
ファーストの発言は、将来的に裏切ると宣言されたようなものである。
別に真の主だと自惚れていたわけでもないし、借り物だったということも納得できたのだが……それでも、何かこう……気分の良いものではなかった。
「誤解しないでね、私が彼女を助けたのは過去(義理)ではなく未来(可能性)のため……」
「解っている……」
前所有者を優先したわけではない、現所有者を軽んじているわけでもない。
将来的に『真の主』になるかもしれないから、殺させるわけにはいかなかったのだと……。
「まったく、何よ、それ!?」
タナトスの背後に現れた皇牙は、大変御立腹のようだった。
「異界竜(ひと)の介入を阻んどいて……何、あんたが介入してんのよ!?」
「介入? また、私を助けてくれようとしたのか……?」
「べ、別にあんたのためじゃないんだからね! こっちにも都合があるのよ、今あんたに消えられると面倒なの! ただそれだけなんだからねっ!」
皇牙は一気に捲し立てた後、フンッとそっぽを向く
「ああ、解った解った……」
タナトスは皇牙の発言と仕草が微笑ましく思えた。
恩に着せておけばいいのにわざわざ打算があること口にするところとか、必要以上にツンツンしているところが……。
「可愛いな」
「……ちょっと、何、ひとのこと見て笑ってるのよ?」
「いや……んっ?」
突然、一輪の薔薇がタナトスの眼前を横切り、大地(天井)へと突き刺さった。
「深紅の薔薇? うっ!」
「離れなさい、死神っ!」
皇牙の警告より速く、タナトスは直感に従ってその場から後退する。
『裂界(れっかい)!』
見知らぬ女の声と共に深紅の薔薇が灼熱色に光り輝き、世界は烈火に包まれた。














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一言でいいので、良ければ感想お願いします。感想皆無だとこの調子で続けていいのか解らなくなりますので……。



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